竹谷靭負著『富士塚考 続』

評者:中嶋 信彰
「富士山文化研究会々報」32(2010.11)

 竹谷氏より、「麦藁蛇の資料を提供せよ」との御言葉があり、また何か始めるのかという軽い気持ちで、行李一つの資料をお送りしたのは、確か昨年末のことだったと思う。竹谷氏は遅筆の私から見れば、まるで鬼神が乗り移ったかのような勢いで、一気呵成に本書を纏められてしまった。私の老後の楽しみになるはずだつた愛蔵の蛇たちは、錦の衣をまとい、立派な研究となって後世に残ることとなった。そのことについては愛憎半ばではあるが、蛇たちの研究にとってはいいことなのだと、一人言ちすることとする。
 閑話休題。あまりにも一般的である行事や事物は、逆に残らないものである。江戸の庶民にとってお馴染みであった「麦藁蛇」は、コンバインの普及とともに姿を消すのだが、最近の復古趣味の影響でまた、愛敬のある姿を示しつつある。しかし、一度途絶えた氏素性は、経歴不詳となって後の世には伝わらないものである。竹谷氏の研究は、この途切れかけた糸をぎりぎりで繋いだ労作である。
 内容に関しては、実物を手にとって熟読されることを是非お勧めしたい。資料の森で、地を這い枝を這う「蛇(ジャ)」の姿を実感されること請け合いである。(深い関係でも、一顧だにされないことは不快であるが、あまり感謝されすぎても、少々こそばゆい気持ちになる。私は単なる佐々木喜善です。どうぞお気遣いなく)


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