久保田順一著『中世前期上野の地域社会』

評者:須藤 聡
「群馬文化」303(2010.7)

 本書は、岩田書院の中世史研究叢書の一冊として刊行された。著者は中世後期の上野に関する研究の成果をまとめ、『室町・戦国期 上野の地域社会』を二〇〇六年岩田書院から刊行したが、本書は古代末期から中世前期を中心とした研究成果を集大成したものである。まず目次の内容を次に記す。

 第一部 新田荘と新田一族
  第一章 平安末期の新田一族
  第二章 新田の荘の成立をめぐって
  第三章 新田一族の家の成立と女性
  第四章 中世笠懸野の開発と宗教的環境
  第五章 長楽寺建立・再建と新田一族
  第六章 山名一族の西遷
  第七章 新田義貞の鎌倉攻めと没落
 第二部 上野の荘園・公領と武士団
  第八章 中世上野の政治構造と地域
  第九章 中世前期の上野介と上野国衙
  第十章 中世群馬郡北部地域の歴史的環境−桃井郷・渋川郷の展開−
  第十一章 鎌倉武士団と板碑造立−上野の国甘楽郡の場合−
  第十二章 石上氏と中世武士団
  第十三章 中世桐生郷と桐生佐野氏の成立の背景
  第十四章 寺尾氏と西上州
 第三部 中世上野の交通と都市的な場
  第十五章 中世上野の東西交通路について
−古代東山道駅路「牛堀・矢ノ原ルート」との関わり−
  第十六章 中世上野の都市的な場−上野「奥大道」を中心に−
  第十七章 中世上野の交通路と宿

 これらの多くは『群馬文化』・『ぐんま史料研究』などに発表された論文がもとになっている。いずれも新田一族・新田荘をはじめ上野の武士団や荘園・公領制を考察していく上で基本的かつ重要な論文であり、一冊にまとめられたのは研究者はもちろん中世上野国について関心を持つものにとっては嬉しい限りである。
 紙数に限りがあるので、まず新稿について紹介する。第四章は、新田荘北部に当たる笠懸野の中世の実態を信仰を軸に解明しようとしたものである。宗教的な環境については新田荘研究の中でも十分に触れられてこなかっただけに、多くの示唆に富んでいる。第九章では平安末期から鎌倉末期までの上野国司について、様々な史料を駆使して分析を行なっている。これまで上野国では院政期以降の国司についてまとまって分析されたことはなかったので、今後の研究の指針になるであろう。
 第三部の多くが新稿であることから、近年の著者の関心が交通や都市にあることを伺わせる。第十六章では板鼻について考察した後、奥大道や東道の宿について考察している。第十七章では、上野国全体の宿地名の分析を通じ、各地を通っていた交通路の推定と都市的な場の芽生えについて考察を進めている。

 新稿以外では、平安末期の新田一族が八幡荘など西上州を本領としていた可能性を述べ新田一族の在り方を問い直した第一章、新田荘成立期の問題を正面から扱った第二章など、ご紹介したい重要な論文はほかにも多数あるが、直接本書をご覧いただきたい。


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