栗原 修著『戦国期上杉・武田氏の上野支配』

評者:秋山正典
「群馬文化」305(2011.1)

 これまで上野国における戦国大名領国の研究のほとんどは小田原の北条氏に関するものであった。本書は、比較的研究の蓄積が薄い上杉・武田氏の領国支配について総合的に研究された論文集である。
 内容は以下の通り。

序章 戦国期東国の権力について
第一編 上杉氏の関東進出とその拠点
 第一章 関東管領山内上杉氏の復活
  付論 上杉氏越山と上野沼田氏
 第二章 上杉氏の隣国経略と河田長親
 第三章 厩橋北条氏の族縁関係
 第四章 上杉氏の沼田城支配と在城衆
第二編 上杉氏支配の展開と部将の自立化
 第一章 上杉氏の勢多地域支配
 第二章 厩橋北条氏の存在形態
  付論 厩橋北条氏の家督交替
  付論 北条高広と佐竹氏・後北条氏
 第三章 沼田城代河田重親と御館の乱
第三編 武田氏の上野進出と支配の展開
 第一章 武田氏の吾妻地域経略と真田氏
 第二章 武田氏の箕輪領支配
 第三章 武田氏の上野支配と真田昌幸
  付論 武田氏の沼田地域経略と小川可遊斎
 終章 戦国期権力の地域支配

 第一編では上杉氏の上野国支配の契機ともいうべき永禄三年の関東出兵について再検討した。謙信は山内上杉氏の名跡と関東管領就任により関東における伝統的な秩序の回復を成し遂げ、また厩橋城・沼田城を支城化することで、河田氏・北条氏(きたじょうし)を中心として領国支配がなされたことを指摘した。
 特に領国の境目であり他勢力の影響を強く受ける厩橋の北条氏は上杉氏の領国支配において重要な役割を果たす一方で、自立化へ進んでいき独自の地域領主へと変貌していく過程をとりあげている。
 第二編では、第一編を受け上杉氏の領国支配の展開において厩橋・沼田両城代に分与された領域支配権について考察している。
 また上杉氏の上野支配において転機となったのが謙信死後に勃発した御館の乱であり、河田氏・北条氏がともに上杉景虎方に与したことで、厩橋北条氏などの自立や沼田地域が武田氏領国に組み込まれるなど、上杉氏の上野支配が後退する過程を論じている。
 第三編では、武田氏の西上野進出と領国支配についてとりあげている。
 まず吾妻地域経略における真田氏の役割とその政治的位置を検討している。真田氏はその過程において特別主導的な立場にあったわけではなく、岩櫃城代としての権限をもつのみであり、本格的に支配権を領するのは天正九年以降武田氏により沼田地域の領域支配を委任された時点であり、天正十年に武田氏が滅亡することにより自立したとしている。
 また永禄九年の落城から武田氏滅亡の天正十年まで、箕輪城を中心とした領国支配を浅利信種・内藤昌秀など歴代城代ごとに時期区分をし、安堵・宛行状など発給文書を詳細に分析することで支配構造を明らかにしている。


詳細 注文へ 戻る