鈴木昭英著『越後瞽女ものがたり−盲目旅芸人の実像−』

評者:北河直子
「全日本郷土芸能協会 会報」61(2010.10)

 「瞽(こ)」という文字は目が見えないこと、またはその人をさす言葉であるという。瞽女(ごぜ)は盲目となった女性が三味線をたずさえて各地を旅しながら段ものや語り物、流行り歌を門付けや民家の座敷で人々に聞かせた旅芸人のことである。
 本書は著者が有志と立ち上げた長岡に事務局を置く「瞽女唄ネットワーク」の会員通信『瞽女唄ネットワーク通信』に創刊号から著者が連載した「瞽女物語」を、さらに一般にも広く読んでもらうべく肉付けした形で全27項にまとめたものである。よって全体として瞽女の日常生活を詳細に描いたものというよりは、越後の瞽女組織についてや巡業活動、瞽女が守り本尊とする弁財天の祭りである妙音講の記述などに比較的紙面が割かれている。
 著者は新潟県長岡市の出身で、越後瞽女の巡業活動がすでに最末期にあった昭和45年6月から調査を開始。既刊本としては『瞽女 信仰と芸能』(1996年)などが挙げられる。当たり前のことながら瞽女は目が見えないので、伝承している唄や語り物、巡業でめぐった地域についての記述などはほとんどなく、したがって調査は彼女らの記憶を頼りにした聞き取りである。失われかけた瞽女を探し当て、越後瞽女全体の活動組織、師弟関係、稼業活動を明らかにした著者の執念ともいえる調査は、同様にフィールドワークで聞き取りをする筆者の立場からしても「よくぞここまで」という驚きを禁じ得ない。
 越後瞽女と一口にいっても、上越・中越・下越では居住体系、巡業範囲もずいぶんと差がある。巡業範囲を分布図にまとめ、弟子への指導方法も親方の生家へ通う長岡瞽女、町中に家を構えてそこへ家族として住み込んで習う高田瞽女などのスタイルがあり、それぞれに家元制、座元制、頭屋制と分類しているところなど明瞭でわかりやすい。
 「盲目旅芸人の実像」とサブタイトルにあるからには、1年のうちの大半を放浪生活で過ごす彼女らの道中をクローズアップしたエピソードがもっとあってもよかったのではないかと思うが、似たような放浪生活をおくる遊行芸人や正月に訪れる門付芸人と違って、各地に常宿をもち、ありがたい存在として受け入れられていた点が他の来訪者との最大の相違点であることは間違いないのであろう。
 現在では見ることのできない瞽女の巡業生活がいかなるものであったのか、なぜ越後の瞽女が他地域の瞽女と違って「瞽女といえば越後」と言わしめるほどの数にのぼつたのかがうかがえる貴重な一冊である。


詳細 注文へ 戻る