竹谷靱負著『富士塚考』

評者:酒井幸光
「あしなか」289 山村民俗の会(2010.8)

 本書は、富士塚前史から富士塚の淵源と系譜、江戸における大名屋敷と富士塚の関連、富士吉田の御師と江戸のつながり、藤四郎と高田富士をめぐる考察など、全十章に分けて構成された富士塚と富士信仰についての研究論考である。これまで著者が折々に発表された論稿を、今回一書にまとめている。とりわけ、最古の富士塚とされる高田富士と築造者藤四郎の所在にまで手をつくされた著者の旺盛な探究心は、たいへん注目される。
 理学博士である著者の緻密な取材と調査による裏付けが、従来ともすると江戸期の民間信仰レベルのようにとらえられがちであった富士信仰に、江戸期以前にまで視野を広げたこと、また広く士農工商の全体を対象に研究の光を投影してゆくことによって、今後の富士信仰及び富士講の研究がより実り豊かなものになるであろうことを予感させる。
 近年の「散歩ブーム」も手伝って、富士塚巡りを行楽として楽しむための新書判のガイドブックが目立つ中、本書はA5判大の学術書でありながら、読み物としても面白く、わかりやすい。「江戸高田富士築造の謎」の解明は、今後、新しい研究によってさらに掘下げられよう。


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