湯山学『関東上杉氏の研究』(湯山学中世史論集1)

評者:鈴木 由美
「ぶい&ぶい」vol.013(2010.5)日本史史料研究会

  本書は、湯山学氏の論考の中から、主要なものを選び編集・刊行する『湯山学 中世史論集』の一冊目として、関東上杉氏に関する二十二編を収録して刊行され たものである。構成は「T 山内上杉氏の展開」「U 扇谷上杉氏の展開」「V  上杉氏一族の展開」の三部からなり、目次を掲げると次の通りである。  

  T 山内上杉氏の展開
1 足利領と上杉氏の関係−上杉氏小考−
2 山内上杉氏家宰職と長尾氏−武蔵国守護代職をめぐって−
3 神奈河・小机と惣社長尾氏−室町末期山内上杉氏の家領支配−
4 上杉憲政と足利長尾氏−河越合戦後を中心に−  
付論 上杉憲政の花押について
5 山内上杉氏の守護代大石氏再考−「木曽大石系図」の史料批判−
6 大石駿河守考−重仲・憲仲・高仲−
7 大石氏の軌跡をめぐって−総周・縄周・綱周−
8 山内上杉氏の在京代官判門田氏
9 山内上杉氏と伊豆諸島−室町時代の武蔵国神奈河湊との交流−
10 鎌倉東光寺と伊豆国那賀郷−伊豆国中世史へのアプローチ−  

  U 扇谷上杉氏の展開
11 扇谷上杉氏の領域支配と城郭−室町末期の南武蔵−
12 武蔵国と太田道灌−文明十八年の悲劇への序曲−
13 道灌の内の者・曾我兵庫
14 岩付太田氏家臣団覚書    
  −「関東幕注文」と「きゃくいの次第・しゅいの次第」−
15 扇谷上杉氏の被官上田氏−豹徳軒と案独斎−
16 武蔵千葉氏私考
17 淵江郷と千葉氏−室町末期の足立区−  

  V 上杉氏一族の展開
18 禅秀の乱後の犬懸上杉氏−宝積寺領駒岡村をめぐって−
19 相模国鎌倉郡永谷と宅間上杉氏
20 六郷保の領主−陸奥五郎と六郷殿−
21 禅秀の乱後における房総三国の守護  
  −上杉定頼の動向を中心として−
22 庁鼻和(深谷)上杉氏考  補論 庁鼻和(深谷)上杉氏の被官岡氏に関する考察
解説 湯山学氏の上杉氏研究                  黒田  基樹
初出一覧
あとがき                                黒田  基樹

 「T 山内上杉氏の展開」では、上杉氏の所領について、足利氏の家領から与えられたものが多いことを指摘した論考や、関東管領を歴任した山内上杉氏、山内上杉氏の家臣長尾氏・大石氏に関する論考を収録し、「U 扇谷上杉氏の展開 」では、扇谷上杉氏の領域支配を分析した論考や、その家宰であった太田道灌と山内上杉氏との確執、道灌を殺した曾我兵庫助を取り上げた論考などを収め、「 V上杉氏一族の展開」では、犬懸上杉氏や宅間上杉氏についての論考や、上杉頼重の子頼成の小山田上杉氏や、山内上杉氏の憲顕の子憲英からはじまる庁鼻和( 深谷)上杉氏に関するまとまった論考としても貴重なものが収められている。また、解説では、本論集の編集にあたった黒田基樹氏が、各論考について、研究史的意義とともに、現在の研究においての到達点を述べていて、それによって関東上杉氏やその周辺の研究についての現況も知ることができる。
 本書所収のそれぞれの論考は、様々な史料を博捜し、それによって丹念に考証 しているもので、単独でももちろん学術的価値が高いものではあるが、まとまった形で提示されることにより、さらに意義深いものとなっている。
 湯山氏の論考は、関東中世史を研究する者にとって必読のものばかりである。 しかし発表媒体が多岐にわたることにより、入手が困難なものもあった。そのため、必要としている人が入手できないという状況もあったであろう。本書や本論集の刊行により、そういった状況が改善され、多くの研究者が容易に読むことができるようになった。それは湯山氏の研究成果を継承し、あるいは乗り越えて進むためにも、また関東中世史研究のさらなる進展のためにも、有用であると考える。


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