中世諸国一宮制研究会編『中世諸国一宮制の基礎的研究』
評者・秋山哲雄 掲載誌・歴史学研究No.744(2000.12)

 本書は,井上寛司氏らを中心に1994年に発足した中世諸国一宮制研究会の活動の成果をまとめたものである。一宮とは,各国ごとの鎮守神として定められた宮のことであり,11世紀末から12世紀初頭にかけて各国ごとに多様性をもって成立した。「はしがき」によれぱ,一宮制研究は1960年代から70年代にかけて「研究が進みその多様な実態が明らかとなるにともなって,かえってその統一的把握は容易でないことが明確となり,その後は主要には地域史研究の一環として,それぞれの地域において独自に研究が進められること」となった。そうした傾向に対して本書は,諸国一宮に関する基礎的データを国別に網羅的に収集・整理し,一宮制の全体像に迫るための材料を掲示することを目指している。この共同研究に参加した研究者は46人を数えるが,これだけの研究者が一堂に会する機会は二度とないだろうと思えるほど非常に豪華な顔ぶれである。
 豪奉なのはそればかりではない。本書に収められているデータは,一宮,二宮,三宮以下,その他の国府関係寺社,惣杜,荘・郷・村の一二宮の6つについては,その名称や所在,初見史料をはじめ,縁起の有無や史料とその刊行状況など,合計12の項目にわたって記されている。また国府,国分寺,守護・守護所についても,その所在や発掘状況など,4つ程度の項目が設けられるなど,一宮だけに限らないさまざまなデータが示されている。さらに親切なことに,国ごとに地域研究機関や参考文献が記され,今後の研究の大きな手助けとなっている。こういった幅広い情報収集と整理は,一宮制研究とその方法論とを再構築することを目指す本書の意図を強く反映したものであろう。
 また,岡田荘司・藤森馨「二十二社の研究と二十二社制」,中込律子「平安期の国衙機構研究の問題と課題」や上島享「鎌倉期の国衙研究をめぐって」といった論稿も載せられている。いずれも研究史整理にとどまらず,多くの問題を提起するものであり,今後の二十二社・国衙機構の研究に大いに刺激を与えるものである。各章末の文献目録もありがたい。
 本書は基本的にはデータベースである。昨今のデータベース興隆を嘆く声も一部では耳にするが,こうした動きは,過度に細分化された日本古代・中世史の研究方法そのものに再検討を迫る有効なものであろう。本書に収められた膨大なデータをもとに,井上寛司「中世諸国一宮制研究の現状と課題」で示された一宮制研究に固有の問題のみならず,多様な分野で研究史が前進することは間違いない。本書の価値は,上記のようなデータを参照する多くの人々によって無限に高められるであろう。日本古代・中世史に関わる方には,ぜひとも座右に置くことをお薦めしたい一冊である。
詳細へ 注文へ 戻る