本書は、上野国で近世期種々作成された「在地縁起」を「上野神話」としてとらえ、そこに発生する様々な史的解釈の有り様を丹念に析出し、上野国での神話体系構築の歴史及び意味を明らかにしている。
著者の視点は、上野国の中世的神話を多く載せる『神道集』とその内容や構造が類似する「在地縁起」を結び付けようとするものではなく、両者の変容にある。そこで筆者は、上野神話の主体イメージの変遷や信仰的背景をふまえた上で、両者を論じる。
「在地縁起」の多様な資料的性格をふまえ、その背景に潜む史的文脈も丁寧に掘り起こし位置づける構成や手法は、この分野における成果を一段と進展させた一書といえる。
こうした試みは、従来の民俗学的文学研究の手法を再考する上でも本書の意味は大きい。また、多様な視点からの縁起研究は、近年注目される分野であり、著者のさらなる研究の進展が期待される。
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