清水紘一著『日欧交渉の起源』

評者:梅田由子
「地方史研究」343(2010.2)

 本書は天文十年代(一五四〇年代)に開始された日本とヨーロッパの交渉の起源に関係する諸課題について、内外の関係史料を詳細に分析・研究したものである。
 著者は一五四〇年代の日欧交渉過程は「肝心なところで「ピンボケ」状態である」と指摘し、日欧交渉の起源に関する考察、鉄砲の伝来と最初期における受容・普及の諸過程の究明、日本開教の主導者フランシスコ・ザビエルの初期布教構想の跡付けの三点を本書における具体的な課題として設定している。
 本書の構成は以下のとおりである。

序章 本書の課題と構成
第一部 日欧交渉の初期過程
第一章 ポルトガル人の種子島初来年次考
第二章 日欧交渉の初期過程
補 論 レキオ(種子島)論再考
第二部 鉄砲伝来の初期過程
第三章 鉄砲の初期伝来過程
第四章 鉄砲の初期普及過程
第五章 「鉄砲記」の基礎的研究
第三部 日本開教の初期過程
第六章 ザビエルの「日本国王」認識
第七章 ザビエルと新納一族
第八章 近世日本の「ザビエル」認識
終章
付 関係史料

 本書の概要を示すと、第一部では、鉄砲伝来関係の記事が収められている「八板氏系図」、「徳永氏系図」について検討を行い、両系図が「種子嶋家譜」の天文二十年説を踏襲している可能性があることを指摘している。また、ポルトガル人の初来航年次について、通説である天文十二年説を否定し、一年前の同十一年であると結論付けた。
第二部では、鉄砲伝来の初期過程について、伝来の初期事例を掲出したうえで、伝来はいずれもポルトガル人経由であることを指摘し、倭寇伝来説に否定的見解を示した。鉄砲の受容過程については、種子嶋家中における火縄銃の人手過程と模造銃製作の段階について明らかにした。また、鉄砲の東伝過程と初期の普及形態について「鉄砲記」所伝の根来、堺、伊豆の伝外の薩摩、豊後、法華の計六ルートを検討し、京阪地帯から室町将軍(幕府)へと献上ほかの形で鉄砲が「集約」されていく過程を論じている。
第三部では、ザビエル書簡に見える「日本国王」の認識について、来日後、「天皇−将軍」という国王観に加えて「明国皇帝−将軍」という認識を持つに至り、明国への布教展望のため、勘合発給権を持つ将軍を重視するようになったと指摘した。また上洛による王権の実態分析の過程と、大内義隆への接近・布教拠点の確立に際しての義隆への日本国王の王権「代行者」認定についても述べている。ザビエルの薩摩での布教活動については島津貴久の家臣新納伊勢守と同一族に付いて取り上げている。また、近世日本におけるザビエルの認識について「戦国末期」「近世初期」「鎖国時代」「幕末開国」の四期に分けて論じている。

 本書は著者自身が基礎的研究を課題として掲げている通り、既存の内外史料を駆使してこれまでの通説を再検討したうえで、日欧交渉の起源に関する諸問題に対して新しい見解を示している。今後の日欧交渉史の基本文献となり得る一冊である。


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