「心」の文字と結ばれた十界の世界、人の一生を表す老いの坂、女性の地獄、亡者を救済する施餓鬼供養など、さまざまな図像が描き込まれた「熊野観心十界曼荼羅」。
熊野比丘尼が絵解きに用いたこの宗教絵画は、時代相を反映し、近世社会において最も人気を博した地獄絵のひとつでもあった。現在60点ほどが確認されている。
本書は、図版編に、熊野観心十界曼荼羅をほぼ網羅し、そのほかに那智参詣曼荼羅、浄土双六、熊野本地絵巻などの関連図版を大型カラー写真で収録する。
論考編では、第1部で、諸本の形式分類と図像の展開、持ち歩く掛け幅画の構造と物語を中心に述べ、第2部で、熊野比丘尼の唱導絵画の特質について述べる。
そして資料編では、裏書・箱書などの銘文と、図版編の折り幅や紙継ぎ寸法を収めた。 |