No.905(2015.03)

【史料翻刻(活字化)のルール】

 日本近世文学会の機関誌『近世文藝』101号(2015.01)に、百号記念パネルディスカッション「翻刻の未来」の概要と傍聴記が掲載されている。それをみると、翻刻に対する考えやその表現方法が、時代や学問分野によって違いがあることがわかる。私は日本史の翻刻ルールになれているので、岩田書院で『浅井了意全集』をスタートさせる時に、国文学のやりかたとずいぶん違って、戸惑ったものだ。
 最近は、県史・市町村史の資料編の影響もあって、漢字の字体は、正字ではなく、常用漢字を使用する場合が多い。また、読めない文字や虫食いなどによる欠字は、単に□で表示するだけでなく、その横に(虫食い)などと説明を付すようになっている。
 ただ、変わらないのは「見せ消ち」の表現方法。「見せ消ち」ってなに?、なんで「見せ消し」じゃないの?、という疑問については、放っておくことにして(自分で調べて)、あの「」を文字の左脇につけて、消してあることを示すというルールは、活版時代の技術的な問題から考案されたものだと思う〔付記:近世文書(案文)などに用例あり〕 。でもいまは、いとも簡単に文字の上に「取り消し線」を引ける。このほうが視覚的に判りやすいと思うのだが、まだ普及していない。
(〓は、繰り返し記号のようなもの)