峰岸純夫著『中世荘園公領制と流通』

評者:秋山正典
「地方史研究」343(2010.2)

 これまで研究史上、物流・銭貨流通などの「商業史」と荘園公領制を扱う「土地制度史」とは分離して考えられてきた。
 これに対し本書は年貢・公事輸送のシステム解明への問題意識などから、水運史を中心とした物流と銭貨流通の問題と荘園公領制の成立・展開過程の考察をあわせて追究する意図でまとめられている。
 本書の構成は次の通り。

 序 荘園公領制と流通
第一部 水運と銭貨流通
一 中世東国水運史研究の現状と問題点
二 荘園公領制と流通 −船と銭と陶磁器−
三 戦国時代東国における銭貨の流通と贈答−『長楽寺日記』にみる−
四 戦国時代武蔵品川における町人と百姓
第二部 荘園公領制の展開
五 年貢・公事と有徳銭
六 十五世紀後半の土地制度
七 十五世紀東国における公家領荘園の崩壊−上野国利根荘の場合−
第三部 網野善彦説の批判的継承
八 網野善彦『無縁・公界・楽』によせて
九 中世史研究ほ変わったか−網野学説の批判的継承−
あとがき

 第一部ではまず水運史の研究史のまとめと地域区分の見直しを行い、その上で中世における経済システムと銭貨流通について考察している。さらに『長楽寺永禄日記』にみられる悪銭の問題や銭貨贈答についてふれ、最後に都市品川を事例に権門(北条氏)と町人・百姓の関係についてまとめている。
第二部では十一世紀初頭の荘園公領制の成立から十五世紀後半の崩壊までを取り上げている。その成立においては年貢・公事や有徳銭という負担義務について考察し、また荘園とならんで、独自に開発されていった私領についても加地子という視点からあわせて考察している。さらに生産力・農業技術の発展などから土地売買や国人・土豪層の地主化により土地所有の体系が変化し、十五世紀以降の戦乱により成長した国人・土豪層の浸食により崩壊していく過程を考察している。
第三部では戦後中世史における網野氏の位置づけを明確にし、網野史学に対して歯に衣着せぬ痛烈な批判を加えている。舌鋒鋭い批判ではあるが、著者の網野氏に対する敬愛の念がうかがえる。


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