白石太良著:共同風呂 近代村落社会の入浴事情

評者:田林 明
「地理」54-4(2009.4)


 日本人の風呂好きはよく知られている。かつては都市部では近くに銭湯があり、入浴料を払えば比較的簡単に風呂にはいることができたが、農村や漁村ではもらい風呂をしたり、遠くの温泉や銭湯にでかけたり、行水をしたりしていた。共同風呂は、おもに農村や漁村の一般の人びとが仲間をつくり、気楽に湯浴みをするための設備と組織である。本書は、明治期から昭和初期にかけて成立し、昭和40年代まで日本各地にみられた共同風呂を取り上げ、それをとおして近代における庶民文化と地域のあり方を考える材料を提供しようとするものである。

 本書は大きく5つの部分から成り立っている。
 まず、「T共同風呂の特徴」では、「主に農村地域において集落単位または集落内の何軒かの家が仲間を組織し、共同浴場施設を設け、用水と燃料を調達して、湯沸し作業の交代制などの協力関係を維持しながら、仲間の家族全員が日常的に入浴したしくみ」といった共同風呂の定義づけに始まり、全国的に分布するが西日本にとくに多いことが述べられ、さらに成立と衰退の時期、風呂の施設と湯沸しなどの作業手順、風呂仲間とそのつきあい、共同風呂の地域的な意味などが整理されている。
 「U共同風呂の事例研究」では、鳥取県中部と佐賀県旧北茂安町、愛媛県西部、北海道と沖縄を事例にして、分布と存続時期、共同風呂の実態、組織、共同風呂の功罪などが述べられている。
 「V共同風呂の調査報告」においては、東北や北陸、四国、九州における聞き取りや地元民との座談会の結果や市町村史の記述などを紹介している。
 「W韓国の共同風呂」は、セマウル運動によって韓国の共同風呂ができたことや、先駆的意味をもつチェジュ島の水浴びを取り上げている。
 最後の「いくつかの共同浴場事情」では、公衆浴場や温泉地の共同浴場、日本と韓国と中国の共同浴場の差異などが検討されている。

 共同風呂は、人びとが日々の暮らしのなかで心身の豊かさを手にいれる1つの方法であり、庶民の人間関係や生活文化の性格、そして地域のありかたを探る重要な研究対象であることを本書は示してくれる。詳細な実態報告は資料的価値も高く、読むほどに共同風呂自体とそれをめぐる庶民の生き様の魅力に引き込まれる。



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