服部治則著『武田氏家臣団の系譜』 | |||||
評者:長谷川幸一 | |||||
「地方史研究」336(2008.12) | |||||
本書は、これまで武田氏研究に力を注いでこられた服部治則氏の論考を集成したもので、岩田書院中世史研究叢書12として出版されたものである。本書の構成は以下の通りとなる。 @武田相模守信豊 @では武田勝頼の従弟である武田信豊の武田家における政治的立場について検討し、武田滅亡時における信豊の動向についても明らかにしている。Aは今井信是、Bでは栗原信友を中心に、その事績を検討し、系譜関係を明らかにしている。Cでは甲府盆地周辺にいた布施・大津・今井・極楽寺・仁勝寺・巨勢村・小河原・小曲・堀内・高室・鎌田・後屋氏についての基礎事実を明らかにしている。Dでは内藤修理亮の前名が工藤源左衛門尉であり、実名が昌秀である事や昌秀の子孫について明らかにしている。Eでは内藤昌月について扱っている。昌月は保科正俊の子息であり、内藤昌秀の養子となった事、源三→修理亮→大和守と称を変えている事などを明らかにしている。Fでは跡部伊賀守について検討している。『甲斐国志』では、跡部伊賀守と跡部勝資の関係は、父子関係ではないとしているが、著者は勝資が伊賀守の嫡子である事を明らかにしている。 これらの論考では、古文書をベースに、諸系譜類や『甲斐国志』・『甲陽軍鑑』などの記述と照合することによって、事実関係が明らかにされてきている。基礎事実の確定という作業は地道なものではあるが、研究上欠くべからざるものである。平山優氏があとがきで述べているように、武田氏研究のうち、家臣団に関する基礎研究は著者の「独壇場」である。著者の業績は「常に参照されねばならぬ基礎研究として、今も不動の地位を占めている」。武田氏研究を志すものにとって、本書が座右の書となることは間違いない。 |
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