著者名:久保田順一著『室町・戦国期上野の地域社会』
評 者:飯森 康広
掲載誌:「群馬文化」287(2006.7)

 本書は、群馬県史をはじめ高崎市史、大間々町誌などの編纂に長年携われ、本県の室町・戦国期研究の第一人者である著者が、ここ二十年にわたり発表されてきた論考に新たな論考を加えて、一書にまとめられたものである。研究の経緯については、著者自ら「あとがき」に述べられるとおりである。ここでは、内容について若干紹介したい。目次は以下のとおり。

序章 本書の課題と方法
 第一部 上州白旗一揆の成立と展開
第一章 上州白旗一揆の成立とその動向
第二章 上杉守護体制と上州白旗一揆
第三章 上州北一揆と吾妻・利根
 第二部 上杉守護領国体制と関東の戦乱
第四章 上杉氏の領国経営
第五章 享徳の乱と地域社会
第六章 長野氏と上杉守護領国体制
第七章 上杉守護領国体制の終焉
 第三部 戦国大名の競合と地域社会
第八章 後北条氏の上野進出
第九章 「関東幕注文」と上野国衆
第十章 越後北条氏の厩橋支配
第十一章 上野和田城と上杉・武田の抗争
第十二章 武田・後北条の領土分割
 第四部 戦国期の町と宗教
第十三章 戦国期の倉賀野
第十四章 戦国期碓氷郡の町と宗教的環境
あとがき

 序章では、中世後期の政治動向を通覧しながら、本書で取り上げた論考を位置づけている。第一部第一章では白旗一揆から上州一揆へという一揆勢力の変遷を、成立期から解体まで段階的に分析する。第二章はその続編とも言える論考で、上州白旗一揆と幕府、鎌倉府、山内上杉氏など上部権力との関係に焦点を当てた論考である。第三章は吾妻・利根地域を扱った新稿である。従来見逃されていた地侍秋間氏に初めて注目するとともに、白旗一揆分析に新たな局面を与えている。
 第二部では、上部権力である山内上杉氏の領国体制を中心にすえて、具体像にせまった第四章、戦国期の始まりである享徳の乱から領国体制の崩壊をみた第五章、ついで高崎市史での成果を発揮され、長野氏の研究を飛躍的に進めた第六章。第七章では、従来過小評価され気味であった山内上杉氏最後の関東管領上杉憲政の評価を、越後入りの分析を通して再評価する。
 第三部では、個別事例の研究となる。謙信越山以前の後北条氏の上野支配を具体的に初めて明らかにされた第八章。謙信の越山と上野国衆の関係を「関東幕注文」から分析した第九章。厩橋北条氏を個別的に研究された第十章。高崎市史の成果を発揮され、従来知られていた以上に、和田城(高崎市)が武田氏と上杉氏の激戦場であったことを明らかにされた第十一章。境界の所領分割を通して、武田氏と後北条氏の同盟関係を分析された第十二章となっている。
 最後に第四部では、高崎市史の成果による倉賀野町の宿分析、安中市史の成果として高野山清浄心院の史料から碓氷郡地域の町分析がなされている。
 以上、著者の幅広い論考を地域社会として一書にまとめられたことで、上野国の室町・戦国期を通覧することが可能になった意義は大きい。


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