著者名:伊藤曙覧著『越中の民俗宗教』
評 者:西山 郷史
掲載誌:「日本民俗学」245(2006.2)

本書には大きく、@「越中のまつりと民俗芸能」A「越中のヒジリ」B「越中の民間伝承」C「綽如上人と蓮如上人」が収載されている。
 @の各論は、「築山習俗」「稚児舞」「獅子舞」「盆踊りチョンガレ節」「願人坊おどり」で、そこでは、曳山の祖型である築山を論じ、これまで四天王寺稚児舞の伝播とされていた稚児舞が立山修験の法楽を元とすることを論証する。また、舞いの勇壮さで知られる越中獅子は、口能登各地にも多く伝わっており、綿密な調査によって、伝播が一目瞭然となるまでに分析されている。
 「盆踊りチョンガレ節」からは、現在、中国の「目連戯」が学会の一部で話題になっているが、それと関連する「目連尊者」踊りが、福井、石川、岐阜にかけて広がっていることが知られる。「願人(念)坊」では、踊り系の古い願人坊と、にわか系の獅子舞願人坊があることを、丹念な現地調査を通して証明する。Aにおいては、役行者、行基、泰澄大師、弘法大師、高野聖、花山院、俊寛、西行、親鸞、最明寺入道、善光寺聖、蓮如、八百比丘尼(白比丘尼)、道心坊、泡済坊(法才坊)、六十六部、円空、木喰、光導行者を取り上げ、徳本、義賢を深く論じている。さらに、越中と深く関わった人物を論じたのが、Cの「綽如上人と蓮如上人」である。
 綽如は、本願寺第五世で、井波瑞泉寺を創建した。その折の勧進帳の筆写堯雲は綽如の号とされてきたが、綽如の筆跡に堯雲と記したものがないことから疑問を提起し、綽如の字体を三十五歳、四十歳、四十四歳の譲り状で比較、堯雲の方は二十五歳と七十五歳の筆跡を分析し、両者の違いを明らかにしている。綽如、堯雲の重要比較文字が四九種類。一四世紀後期の字体を詳細に見ることができるだけでもすばらしいが、学問とはこのようにして、ここまで調べるのだという、姿勢・方法を教えられる。
 蓮如論は、「民俗から見た蓮如上人の足跡」「蓮如忌習俗」「蓮如という僧名について」と興味深い論が並ぶ。綽如と堯雲が「硬」なら、蓮如関係は「軟」というべき親しみやすさがある。先ず問題意識があり、硬軟取り混ぜての論が展開されるには、よほど歩き、調べ、読みの探さがないとできるものではない。これからの人にも、方法論だけでも知っていただきたい。一つ一つの論が指標となっている大著である。
 
詳細へ 注文へ 戻る