著者名:神奈川県博物館協会編『学芸員の仕事』
評 者:矢嶋 毅之
掲載誌:「千葉史学」47(2005.11)

私が本書の存在を知ったのは雑誌の広告欄である。そこには「学芸員の仕事のおもしろさを紹介する」とある。私も現在歴史系の博物館に学芸員として勤務している。仕事は面白いかと自問してみると、展示の企画・準備に奔走しているが、遣り甲斐のある仕事ではある。私のことはともかく、学芸員の仕事の面白さというのをどのように著しているのかが知りたくなり、読んでみた。結果は、これまで刊行されたこうした類の書物と比べて、断然おもしろかった。是非とも、多くの方々に読んでいただきたいので、紹介したい。
 本書は神奈川県博物館協会が創立五〇周年の記念事業の一環として刊行されたものである。神奈川県博物館協会は、県内に設置された博物館相互の連絡をはかり、博物館活動の振興に努め、また学術文化の進展に寄与することを目的に、昭和三〇年(一九五五)に国内初の博物館連絡協力組織として結成された。結成当初の加盟館が二三館園であったのが、平成一六年八月現在で一一〇館園に達した。同協会はこれまで周年事業を企画・実施し、その活動は県域をこえて周知されている。
 今回は、学芸員の仕事をテーマに五〇の事例を紹介している。そのなかには、博物館・美術館・科学館・動物園・植物園・水族館など様々で、なおかつ各館の運営形態・財政規模も異なっている。しかし、こうした問題をいとも簡単に乗り越え、徹底した現場主義のもと、学芸員の仕事の実態を紹介している。
 本書の構成は以下の通りである。
 第一章 調査研究の今
 第二章 さまざまな資料を集めて
 第三章 未来に遺し伝える
 第四章 博物館の顔−常設展示−
 第五章 短期決戦−特別展示−
 第六章 博物館に集い・学ぶ
 第七章 多岐にわたる博物館の仕事
 第八章 模索する博物館
 第九章 こんな人・こんな仕事
 ところで博物館法には学芸員の職務について、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究、その他これと関連する事業についての専門事項をつかさどるとある。このように表現すると、一般の人々が学芸員の仕事を理解するのは困難であろう。しかし、本書はこれまで学芸員の仕事を原則論や理想論などではなく、現場で活躍する学芸員の仕事を端的に示しており、まさに画期的なものである。
 読者は目次を見て興味を持たれたところから読み始めてはどうだろう。資料の保存に細心の注意をはらい日々努める姿、企画から展示されるまでの知られざる工程など具体例をあげ、学芸員の生の声で率直に語っている。
 例えば、「多岐にわたる博物館」(第七章)では、学芸員の仕事が調査・研究だけではなく、広報活動にも及ばなければならないことになっている。これは単にテレビ・新開などの取材に学芸員が応じるだけでなく、学芸員が積極的にメディアにアプローチすることも当たり前のようになりつつあるとしている。またここでは通常表舞台には出ることのない「博物館の予算と執行」と題する事例も紹介されている。
 こうした多岐にわたる博物館の仕事について、学芸員の資格を取得しようとする学生はどのように考えるのだろうか。
 本書の第九章「こんな人・こんな仕事」はまさに学芸員を目指す学生を対象としている。ここでは博物館実習の事例を三件、日常の学芸員の仕事例として二件紹介している。博物館実習は学生が学芸員の仕事を実際に体験できる貴重な時間である。近年は学芸員の資格を目指す学生も増え、実習の受入先を確保するのも困難になりつつあるという。また受け入れる側は、カリキュラムを組んで対応している。しかし、学芸員の資格を取得しても実際にその職に就くのは極めて難しいのが現状である。
 なお本書には、「わが館の自慢」と題するコラムがあり、地域別に加盟館を紹介している。各館の特徴が記され、本書が県内の博物館のガイドブックとしての役割も果たしている。
 最後に、本書にあげられた事例は決して神奈川県だけの問題ではなく、現在ある博物館のもつ課題といってよいだろう。多くの学芸員が本書の出現を願っていたのではないだろうか。多くの課題があるが、それを克服するヒントも本書にはあるように思われる。
                               (成田山霊光館)

 
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