書誌紹介:戸川安章著
『出羽三山と修験道』(戸川安章著作集T)
『修験道と民俗宗教』(戸川安章著作集U)

<第十五回 日本山岳修験学会賞 推薦文>

出羽三山修験道研究の泰斗で本会の顧問である戸川安章氏の、主として『出羽三山修験道の研究』(一九七三年、佼成出版社)の出版後に公にされた論文を二巻に集成したものである。Tの『出羽三山と修験道』には、東北地方の山岳信仰を概観した論文、出羽三山の信仰や歴史、羽黒山の一山組織や霞制度、羽黒山の峯入りや祭礼行事に関する論文など十七編、鳥海山・羽前金峯山に関する論文四編、羽黒派修験の語彙集一編、それに付編三つを収める。Ilの『修験道と民俗宗教』には、出羽三山を中心とする修験道と民俗信仰との関わりについての論文、修験道用具を解説したもの、山・海に関する信仰・文化についての論文など二十九編と、柳田國男との往来の書簡を紹介した随想一編を収める。
 戸川氏は羽黒修験の家に生まれ、実地に修験道を行じ、羽黒修験の指導的立場にあった。修験道の基盤となる密教の事相・教相に明るいが、柳田國男に親近し、民俗学的方法論を依用して修験道の解説を試みられた。氏がめざすところは、出羽三山を通して修験道というものの成立、発展の過程を明かにし、修験道のもつ宗教的・呪術的機能を民俗学的方法によって解明することであった。
 もとより出羽三山には、近世において羽黒山と湯殿山との間に確執があり、明治には神仏分離、廃仏毀釈の辛酸を嘗めたが、いまもって特色ある峯入り修行や祭礼、信仰を伝えている。修験道研究には避けて通れない重要な位置にある霊山である。修験道には秘事、口伝が多いが、氏は学問発展のため門戸を開き、幾多の論文をものして詳しく報告された。古文書・古記録をも渉猟し、多岐多方面にわたる問題について筋道を立てて説き明かし、独自の修験道論を展開された。これまで執筆した論著、編著は十指に余り、論文の蓄積も膨大である。本論集二巻は氏の研究歴の後半をなすもので、珠玉の名編が揃っている。百歳に近い高齢で、なお数箇所に補足を加え、編集の難事業を成し遂げられた。後進のかがみとなる有意の修験道論集として、学会賞に推薦する。

日本山岳修験学会賞選考委員会
鈴木昭英(委員長)・菅原寿清・鈴木正崇・田中久夫・恒遠俊輔
 
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