書誌紹介:神奈川県博物館協会編『学芸員の仕事』
掲載誌:「民具マンスリー」38-4(2005.7)神奈川大学日本常民文化研究所
評者:湯浅 浩

 はじめに
 神奈川県博物館協会(会長 西川杏太郎 神奈川県立歴史博物館館長、以下「県博協」)では、県博協創立五〇周年記念事業のひとつとして、『学芸員の仕事』(岩田書院)を出版した。「民具マンスリー」の読者諸賢には、博物館・資料館勤務の方が多数いらっしやるとのことで、ここでは、地方博物館団体における活動の一端として、出版に至る経緯を紹介し、併せて本書の概略を紹介したい。

経緯
 県博協が平成一七年に創立五〇周年を迎えるにあたり、平成一四年五月に加盟館園の職員一六名(現在は一七名)と事務局から構成される実行委員会が結成された。県博協では今までも周年事業として特別展を開催してきた経緯があり、この場では、記念事業として、「何をするか」から議論をはじめることとなった。議論の末、記念式典・記念誌の刊行と共に、特別展に代わる事業として、一般向け書籍の出版がこの段階で計画された。翌年になると、実行委員会内に本書出版の実働部隊になる7名で構成されるハンドブック・ワーキング・グループが結成され、内容の検討、原稿依頼、編集などの作業を実施することとなった。作業はほぼ毎月、事務局の置かれる県立歴史博物館等にメンバーが集合して進められた。また、県博協というひとつの組織で行われる性格上、会長をはじめとする役員の方々に、役員会の席上で状況を報告しつつ進められた。
 出版社については、本書の構成が固まった時点で複数社と交渉した結果、内容と県博協側で用意できる金額の、両面で折り合いのついた表記の出版社が選ばれた。

本書の構成
 9章五〇項目にコラム欄を設けた本書の構成は概ね以下に示すとおりである。なお、「わが館の自慢」と銘打ったコラム欄は各章末に収めている。
 神奈川県内の博物館MAP
 刊行にあたって
 第1章 調査研究の今 3事例
 第2章 さまざまな資料を集めて 4事例
 第3章 未来に遺し伝える 7事例
 第4章 博物館の顔−常設展示− 5事例
 第5章 短期決戦−特別展示− 5事例
 第6章 博物館に集い・学ぶ 6事例
 第7章 多岐にわたる博物館の仕事 7事例
 第8章 模索する博物館 8事例
 第9章 こんな人・こんな仕事 5事例
 加盟館園名簿・おわりに・実行委員会名簿
 横浜地区の博物館MAP

本書の特徴
 話は前後するが、内容の検討に際して、いくつかの基本的な方針が立てられた。この方針は、まさしく本書の特徴と言い換えることができよう。まず、「@加盟館園にできる限り参加してもらうこと」である。各章末のコラム欄は、まさしくこの方針を具現化したものである。次に「A学芸員の職を目指す学生を中心に、博物館活動に興味を持つ人々を主な読者層としたこと」である。第9章で博物館実習に関する事例を三例も取り上げているのは、この方針に基づいたものである。また、第6章のみならず、第1章や第8章にも博物館と地域の人々が共に活動している事例が示されている。そして「B執筆者にはあるべき姿ではなく、今ある姿を執筆していただくこと」である。不遜な言い方ではあるが、書店に並ぶ博物館学の書籍には理論が整然と並び、「……すべきである」あるいは「……でなくてはならない」と結ばれるものが多く、ワーキング・グループ一同、博物館の実際の姿が浮かんでこないように感じられていた。そこで、原稿依頼時に、各執筆者に対し、担当する実務の「今ある姿」を表現し、末尾にその実務の問題点や課題を記述していただくように明記したのである。

是非御一読を
 私も博物館(類似施設だが)に身を置くひとりでありながら、本書の編集を通して「博物館の人ってすごい」と感心してしまうことがしばしばであった。これは、動物園・水族館・科学館等が博物館法で括られる同じ博物館であることを頭ではわかりながら、実務のことはさっぱりわかっていなかったことに起因する。つくづく考えれば、博物館学芸員というとりあえずの肩書きを持つ以上、他の館種のことを全く知らないでは済まされないに違いない。今回、門外漢の私が、こうして「民具マンスリー」に拙文を掲載していただくこととなったが、これも本書編集時における御縁があったからである。最後に、博物館関係者のみならず、多くの方々に是非とも本書を御一読いただきたくお願いする次第である。
           (湯浅浩・小田原城天守閣)

 
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