書誌紹介:神奈川県博物館協会編『学芸員の仕事』
掲載誌:「地方史研究」316(2005.8)
新刊案内:國 雄行

 一般的に博物館や美術館等で、資料の展示や収集活動を行っている人のことを「学芸員」と呼ぶことはあまり知られていない。ましてや、学芸員が具体的にどのような仕事をしているか知っている人も、ほとんどいないのが現状である。このような状況を打開する画期的な書が出版された。本書は、学芸員の生の「声」を収録し、徹底的に現場主義を貫いた書であり、学芸員をめざす者、博物館の実態を知りたい者の必読書である。
 構成は、第1章:調査研究の今/第2章:さまざまな資料を集めて/第3章:未来に遺し伝える/第4章:博物館の顔−常設展示−/第5章:短期決戦−特別展示−/第6章:博物館に集い・学ぶ/第7章:多岐にわたる博物館の仕事/第8章:模索する博物館/第9章:こんな人・こんな仕事、となつており、各章末にコラムとして「わが館の自慢」が記されている。
 本書の内容を各章から摘記し紹介する。学芸員の仕事はすべて調査研究に裏付けられているが、第1章3の佐川和裕「紀要・目録の刊行」では、その調査研究を地域の人々に還元する手段としては、「視覚的に情報や資料を共有することのできる刊行物はたいへん有効」で、そのなかでも年報や紀要、目録などが「博物館の基本理念を直接指し示すもの」であると指摘されている。
 第2章5の刈田均「民俗資料の収集」では、民俗資料として対象となるものはどういうものかを述べた後に、「数が多ければ多いほど、資料は自然にいろいろなことを語りはじめ」るが、博物館が開館した当初、「がらがらの状態」であった収蔵庫が、「二年後には空きスペースはわずかになってしまうような状況」となり、現在は「資料が通路までふさぎ始めている状況」となっていると、どこの博物館でも直面している困った問題を提示している。
 第5章は、特別展についてまとめられている。特別展は、展示資料を他から借用してくる場合が多い。本章23の内田浩史「資料借用の現場」では、資料借用を申し入れる際、「事前に書状をしたため、着いてから数日過ぎたころを見計らって電話をしています。ここで断られてしまう可能性もありますが、会ってもらえるとなれば話は一歩前進です」、そして、資料借用のため「初めて訪問する社寺の場合は、相当に緊張します。新しく信頼関係を築かねばならないからです。自分たちが信用してもらえなければ、いかに優れた特別展示であろうと、資料の借用は不可能です」と、資料借用の難しさ、そこに存在する信用関係の重要性を訴えている。
 学芸員実習に挑む者は、第9章を精読する必要がある。本章46の望月一樹「実習生を迎え入れて」では、「ただ単に資格取得のために実習に来るというのではなく、たとえ就職ができなくてもこの実習で何かを学びたいという気持ちが大切ではないか」と記しているように、博物館側が、どのような実習生を求めているのか、うかがい知ることができる。実習生の中には、大学の授業と勘違いして漫然と実習を受ける者もいるが、実習といえども、そこには社会人としてのルールが適用されることを深く認識することが重要なのである。
 本気で学芸員を目指す者は、本書から、現場で様々な困難に直面して「すったもんだ」している学芸員の声をよく読み取るべきである。今後はこのような学芸員の本音が記された(まだまだ言い足りないところもありそうであるが)書物がさらに出版されることを期待したい。

 
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