森田 きよみ著『小天狗道中記』
掲載誌:『山の本』白山書房(2004.夏)
評者:島本 達夫


 本書は大谷大学大学院で修験道を学んだ女性による天狗の研究書である。と書けば何やら難しい学術書のように思えるが、フィールドワークを得意とし、小天狗と仇名される著者は、全編ハチャメチャ道中記のスタイルで書き進むから読者は主題そっちのけで話に引き込まれてしまう。例えば大峰奥駈の顛末、(南奥駈の二日目。…小天狗、小テントにあり。夜半、すさまじい雷と集中豪雨が、何とも仲良くやって来た。小テントの天幕が蛙のお腹みたいにミルミルはらんで、顔面直前まで押し迫り、ついにバクハツ− 多量の雨水を溜め込んだ重いテントがいきなりドスンと降ってきた)。それでも一行の学僧方は嵐などどこ吹く風とスヤスヤ眠っておられたそうだ。もちろん著者は女人禁制を忠実に守り山上ヶ岳はスキップした。
 異端の神格、天狗様は本来姿形のなかった山の神を具現化したもの、つまり天狗=山の神様であると実証するのが本書の狙いらしい。登場する方々は仏教界の碩学、修験寺の御住職、山伏と多士済々。普段わたしたちがお話を伺う機会のない分野の方ばかりなので何もかもが新鮮だった。
 いつもなら著者にすぐさま「山の本」に執筆をお願いするところだか、丹沢の天狗様、ハンス・シュトルテ神父から、著者は昨年暮れに鬼籍に入られたと知らせがあった。享年わずかに四八歳、後には高校教諭のご主人と二人のお子さんが残された。


 
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