1999年度日本民俗学会奨励賞
中野泰著「年齢階梯制における差異化のシステムと正当化」
『性と年齢の人類学』47〜68頁所収


(理由)

中野泰氏の論文は、事例研究を通して年令階梯制の原理とそれを維持するイデオロギーとを論じたものである。具体的には、山口県萩市玉江浦の青年宿及びそれと密接な関係を持つ漁業組織を分析対象として論じ、青年宿への宿入の年次が以後の階梯を決定していること、宿の階梯が大きく三つに分けられることを指摘するとともに、漁業組織も年次に基づく組織原理を応用したものであるとする。その上で、ホマレ、ブサイクという民俗語彙によって表される行為が同一年次内の差異化をはかり、それが青年宿に掲げられている席札の移動によって示されることを明らかにした。
中野氏が注目したホマレという言葉は、当該地域の理想的な青年像、つまり「長幼の序をわきまえ、礼儀を正しく、贅沢をしない漁民たること」をしめすもので、それは青年宿を維持する前提ともなり、差異化をはかるための操作を正当化しているイデオロギーであることを指摘している。
本論文が玉江浦の青年宿の組織原理を明らかにし、ホマレ、ブサイクという民俗語彙に注目し、それが差異化をはかるイデオロギーであったことを示し得たことは高く評価できる。しかし、組織原理の究明に多くの紙数を費やしたために、ホマレ、ブサイクという民俗語彙に含まれるであろう多様な習俗の分析が充分になされていないことに不満が残る。さらにホマレを含めて青年宿、精神講話などの言葉でも明らかなごとく、近代における国家、政策との関連の検討が必要不可欠なものである。そうした視点を導入し、改めて再考されることを希望するものであるが、論文に示されているユニークな分析視角及び今後の展開が期待される点で、本論文が奨励賞受賞に該当すると判断した。
(審査委員会:古家信平・増田昭子・山本質素・吉川祐子・宮本袈裟雄)
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