植木行宣・田井竜一編『祇園噺子の源流』

評者:関 孝夫
「儀礼文化ニュース」174(2010.7)

 本書は、京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センターの共同研究を基に、祇園囃子の源流について、風流拍子物・羯鼓稚児舞・シャギリというテーマから仮説を提示しようとする論文集である。
 この共同研究では、すでに山・鉾・屋台の祭りの成立と展開、これに呼応した囃子の系譜と特質を考察した『都市の祭礼−山・鉾・屋台と囃子』を上梓している。本書は、この成果をさらに進めたものである。
 この概要と仮説の提示については、編者である田井竜一氏が巻頭の総論で詳細に検討しており、まず一読をお勧めしたい。
 祇園囃子の源流を風流拍子物とする考え方については、すでに本書の編者の一人である植木行宣氏によって論じられてきた。
 本書では、中世末から近世に至る画像資料の検討を行い、祇園祭における風流拍子物の実態をあぶりだそうとしている。洛中洛外図屏風や祇園祭礼図屏風の系譜とその特質が論じられ、これを踏まえて山鉾の形態の変化や、祇園囃子の生成過程が検討されている。
 次に、羯鼓稚児舞と祇園囃子との問題である。本書では、風流拍子物が地上で鉾をはやしていたものが、その鉾に乗ったものであるという考え方の中から、羯鼓稚児舞に注目している。この羯鼓稚児舞について、音楽や、現在の祭礼や、文献にある祭礼の記録の中から考察をしている。
 シャギリの問題については、山・鉾・屋台の祭礼において練り物行列の囃子に「シャギリ」という名称がよく聞かれることから、祇園囃子の成立にこの「シャギリ」が手がかりになるのではないか、という目途の中で検討が行われている。能・狂言、歌舞伎におけるシャギリ、現在の祭礼でのシャギリについての考察が加えられている。
 現在の祇園祭では、綾傘鉾、四条傘鉾に風流拍子物の遺風を感じるが、目を引く鉾の上に稚児が乗るのは長刀鉾だけである。そのうえ、山鉾巡行の先頭を行く際、稚児は注連縄を切るパフォーマンスで知られているが、羯鼓稚児舞の痕跡は感じられなくなってきている。
 本書は、音楽学・民俗学・芸能史・美術史などの研究者により学際的な検討の中から祇園囃子を遡及する意欲的な論文集となっている。参考までに、主要目次を以下に示す。

 「祇園囃子」の源流−風流拍子物・羯鼓稚児舞・シャギリ  −(田井竜一)
 羯鼓稚児舞・獅子舞・しゃぎりにみる旋律および拍節構造(樋口昭)
第一部 羯鼓稚児舞の系譜
 山鉾を囃す稚児舞(植木行宣)
 山名神社天王祭のオマイ−地域の伝承から−(北島惠介)
 動物風流とつく舞−舞台・芸態・音楽−(入江宣子)
 美濃御嵩の願興寺祭礼(福原敏男)
 「だんじり」遡源−祇園の会にも「たんちり」ぞ舞ふ−(宮本圭造)
第二部 シャギリの展開
 能と狂言における下り羽・渡り拍子・囃子物・シャギリ
  −登場から退場への構造−(藤田隆則)
 歌舞伎囃子におけるシャギリの諸相(土居郁雄)
 村上大祭のしゃぎり(伊野義博)
 二本松における「しゃぎり」
  −「しやぎり」の情動表現機能の今日的意義を含めて−(竹下英二)
 近江湖北のシャギリ文化に関する一考察
  −長浜曳山祭りのシャギリの成立とその後の展開からー(橋本章)
第三部 画像資料の諸相と「祇園囃子」
 洛中洛外図の系譜と展開(安達啓子)
 祇園祭礼図の系譜と特質(八反裕太郎)
 図像にみる祇園祭山鉾とその変遷(植木行宣)
 画像資料にきく「祇園囃子」(田井竜一)


詳細 注文へ 戻る