幕末期不二道信仰関係資料
 不二道願立御糺に付御答書
     岩田書院 史料叢刊D

岡田 博 編・加藤信明 校閲

2011年7月刊
A5判・392頁・上製本・函入
ISBN978-4-87294-700-7 C3321
7900円 (税別)
刊行によせて───────梅澤ふみ子(恵泉女学園大学教授)
「不二道」は、在俗の富士行者食行身禄が唱えた教えを核として民衆が自発的に組織した信仰集団である。今日「不二道」の名を知る人は少ないが、江戸時代末期には民衆の中から生まれた信仰集団の中で最大規模を持つものの一つだった。…食行身禄や小谷三志の教えの根底には、理想の世「みろくの世」を実現しなければならないという使命感があった。…信者の中にも「みろくの世」実現の志を抱く者が少なくなかったが、その一人が弘化4年(1847)に幕府に対して不二道による教化の実施を求める訴えを起こした。
「不二道願立御糺に付御答書」は、その訴えが勘定奉行所と寺社奉行のもとで審理される過程を不二道側の人物が書き留めた記録であり、不二道に結集した民衆の宗教観念、社会思想、情報伝達のネットワーク、さらに奉行所の審理のやり方を知るためにも役立つ価値の高い史料である。本書には、教義や儀礼について詳細に質問する役人と、それに応じる信者の質疑応答が言葉どおりに記録されているが、それは不二道の教義・儀礼や、信者たちの思想や信念を知る絶好の手がかりとなる。…
「不二道願立御糺に付御答書」には、不二道の中での訴訟推進派と訴訟反対派が対立する過程も記録されている。…この対立は、明治維新後の分裂の前提の一つとなるが、本書は、その分裂の起源が、理想の世界を実現する方法の差異、特に支配権力との距離の取り方に起因することを示す点で興味深い。(以上、抄録)
 

本書は、弘化4年(1847)6月から嘉永2年(1849)9月までの2年間の記録であり、1977年に『鳩ヶ谷市の古文書』第3集(岩科小一郎:序)として刊行されたものに、そのごに発見された史料を岡田が増補し、上段に本文を、下段に詳細な脚註を付したもので、全体にわたって加藤が校閲した。脚註は、編者が、不二道の教義・史料、信者や子孫についての、長年の調査・研究で蓄積された知識を駆使して記したもので、編者による解説100頁と併せて、不二道を理解するための基本資料となった。

岡田(鳩ヶ谷市文化財保護委員/1929年生)
加藤(鳩ヶ谷郷土史会副会長/1949年生)

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