前著『日本昔話の伝承構造』が、昔話が語られる場“語りの座”に注目したのに対して、本書では、語り手と聞き手との間にある緊張関係の解明に焦点をあてようとした。
本論の全体構想は語りを中核として、昔話を語り、昔話を聞くという行為の中で、聞き手がどのように昔話の世界へ入り込んで行くか、またそのために昔話が語り手の掌のぬくもりの中で、いかに醸成されてきたかを、歴史や伝承の民俗社会の中で考えたものである。語り手もまた,聞き手との関係性の中で語りの展開に「作」を入れようとすることもあり、語り手と聞き手の関係の中から、一体何が見えてくるかを探ろうとしたともいえよう。 |